熊本地方裁判所 昭和58年(行ウ)10号 判決 1992年11月26日
原告
浅井宜隆
外三八六名
原告ら訴訟代理人弁護士
立木豊地
同
尾山宏
同
青木幸男
同
槙枝一臣
同
川副正敏
同
森川金寿
同
佐伯静治
同
高橋清一
同
柳沼八郎
同
戸田謙
同
芦田浩志
同
新井章
同
重松蕃
同
雪入益見
同
北野昭弐
同
藤本正
同
深田和之
同
谷川宮太郎
原告ら訴訟復代理人弁護士
秋田瑞枝
被告
熊本県教育委員会
右代表者委員長
中上幸
右指定代理人
青野洋士
外一七名
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告らに対してなした昭和五八年三月二八日付各戒告処分はこれを取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは、昭和五八年三月二八日当時いずれも熊本県下の市町村立小中学校または県立学校に勤務する教職員であり、その勤務校は別紙一覧表の「勤務校」欄(小学校は「小」、中学校は「中」、高等学校は「高」とそれぞれ略称を用いる。)記載のとおりであり、その職種は同表の「職種」欄(教諭は「教」、養護教諭は「養」、事務職員は「事」、栄養職員は「栄」、実習助手は「実」とそれぞれ略称を用いる。)記載のとおりである。
2 被告は原告らに対し、いずれも昭和五八年三月二八日付をもって各戒告処分(以下、本件処分という。)をなした。
3 原告らは、本件処分につき、昭和五八年五月二六日、熊本県人事委員会にそれぞれ審査請求をなし、同年八月二五日が経過した。
4 本件処分はいずれも違法な処分である。
よって、原告らは被告に対し、本件処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の各事実はいずれも認める。
2 同4は争う。
三 抗弁
1 日本教職員組合(以下、日教組という。)は、昭和五七年一一月四、五日の両日、第一〇七回中央委員会を開催し、同年一二月の臨時国会の山場に向けて、人事院勧告の凍結解除を求めるため、午前半日のストライキを行うことを決定するとともに、同年一一月八日から同月末にかけて各都道府県毎に組織する教職員組合(以下、県教組という。)や高等学校教職員組合(以下、高教組という。)に対し、スト権投票を行うよう指示した。
2 日教組のストライキの動きに対処するため、文部省初等中等教育局長は、同月一五日、各都道府県及び政令指定都市の教育委員会教育長に対し、「教職員のストライキについて(通知)」の通知を行い、熊本県教育長は、右通知を受けて、同月二五日、県下の各教育事務所長及び各県立学校長に対し、管下の教職員にこの要旨を徹底させ、教職員がストライキに参加し、勤務を放棄することのないようその指導監督に万全を期すよう指示した。
3 日教組は、その後、同年一二月一〇日、東京都で全国戦術会議を開き、ストライキの内容を早朝二時間とし、第一波の統一ストライキを同月一六日に、さらに参議院の山場に向けて第二波のストライキを行うことを決定し、これを受けて、北海道、大阪、福岡など二一道府県の県教組と東京、広島など一四都県の高教組(高教組単独を含めて二七都道府県)がこのストライキの実施を決定したが、熊本県においても、県教組及び高教組がいずれも「早朝二時間・二波」のストライキを実施することを決定した。
4 右のストライキへの動きに対し、文部大臣は、その実行を阻止するため、同月一三日、報道機関等に対し、概略、「日教組等は人事院勧告の凍結撤回・完全実施を目指して一二月一六日以降二波にわたるストライキを行おうとしているが、公務員である教職員は目的のいかんを問わずストライキ等の争議行為を行うことを法律で禁止されているのであり、これに反することは次代を担う児童・生徒に対してその師表となって育成するという重要な使命・職責を忘れるもので国民の信頼を裏切るものであるとしたうえで、教職員各位に対しては誤った闘争に参加しないように、また、各教育委員会に対しては違法行為防止のための指導を徹底するとともに、違法行為が行われた場合には厳正な措置をもって責任の所在を明らかにするように、各要望する。」旨の談話を発表し、ストライキの中止を呼び掛けた。
そして、文部省初等中等教育局地方課長は、各都道府県及び政令指定都市の教育長に対し、右文部大臣談話を送付した。
熊本県においては、同県教育長が、同月一三日、報道機関に対し、「日本教職員組合は、公務員共闘の統一闘争の一環として、「人事院勧告凍結撤回・人事院勧告の完全実施」を目指し、きたる一二月一六日及び一二月下旬に二波にわたるストライキを実施しようとしております。公立学校教職員の争議行為は、その目的のいかんを問わず法律で厳に禁止されているところであり、また、次代を担う国民の育成という職責の重要性に鑑み、このような行為は断じて許されないことであります。教職員各位においては、児童・生徒に与える影響の重大さにあらためて思いをいたし、保護者及び県民の信頼と期待を裏切ることのないよう切に自重を望みます。万一、違法行為が行われた場合は、法に基づいて厳正な措置をとる所存であります。」との談話を発表して教職員に自重を呼び掛けるとともに、右談話を熊本県下の県立学校長及び各教育事務所長に伝達し、それぞれ所属教職員に対して(各教育事務所長の場合は管下の地教委教育長及び小中学校長を通じて)その趣旨の徹底を図るよう指示した。県立学校長及び市町村立小・中学校長は、右指示に基づき、同月一四日から一五日にかけて、各学校の教職員に対し、右教育長談話を配布もしくは掲示し、またはこれを読み上げる等の方法によって同談話の周知徹底を図るとともに、併せてストライキ当日の勤務時間の割り振り、日課の変更はないので、所定の勤務時刻までに出勤するように指示した。
5 熊本県教組及び熊本県高教組に属する教職員らは、県教育委員会等当局の前記4のような指示ないし警告にもかかわらず、同月一六日、熊本県下の小・中・高等及び特殊学校において、管理職員等を除く教職員総数一万四五〇〇人のうち約四四五〇人が勤務開始時から二時間の勤務放棄(定時制高校にあっては勤務終了前一時間)を行った。
6 原告らについては、佐藤尚士(別紙一覧表「訴状番号」欄番号250)、福島彗(同251)、秋田憲行(同252)、樋口輝幸(同261)、原口末春(同268)、蓑田建彦(同313)、緒方幸範(同325)及び茂見正(同326)の八名を除く者は勤務開始時から二時間の、また、右八名の者は勤務終了前一時間の、勤務放棄をそれぞれ行った(以下、本件ストライキという。)
7 被告は、本件ストライキが実行された直後から、県下の県立学校長及び市町村立小中学校長を通じて本件ストライキ当日における各教職員の勤務状況を正確に把握するとともに、小中学校関係については地方教育行政の組織および運営に関する法律三八条一項の規定に基づいて小中学校教職員の服務監督者たる各地教委から処分の内申を受けたうえで、一時間以上職務を放棄した者及び三〇分以上一時間未満の職務放棄者で昭和五三年度以降に文書訓告もしくは懲戒処分を受けたことがある者について戒告処分をなすこととし、この基準に従い、昭和五八年三月二八日付で、原告らに対し、本件処分を行った。
四 抗弁に対する認否
1 1の事実は認める。
2 2の事実は知らない。
3 3の事実は認める。
4 4の事実は知らない。
5 5及び6の各事実は認める。
6 7は争う。
五 原告らの主張
1 地方公務員法(以下、地公法という。)三七条一項及びこれに基づく本件処分は憲法二八条に違反し無効である。
(一) 憲法二八条は、労働者の団結権、団体交渉権及び争議権のいわゆる労働基本権を保障しているが、これは、労働基本権によって労働者が実質的な自由と平等とを確保し、使用者と実質的に対等な立場に立つことを促進し、労働者が自らの力で経済的地位の向上を図り、もってその生存を確保することを保障したものである。
(二) 公務員も、国または地方公共団体の業務の遂行のため自らの労務を提供し、その対価として給与を得て生活している点で、一般の労働者と異なるところはなく、憲法二八条にいう勤労者であり、憲法上財政民主主義・勤務条件法定主義が制度的に保障されている中で、憲法二八条によって労働基本権が保障されているのであって、公務員に憲法上特殊な地位が付与されていること、公務員の職務が公共性をもっていること、人事委員会勧告制度等が存することをもってしても、地方公務員の争議行為を全面一律禁止している地公法三七条一項に合理性がないことは明らかである。
(1) 財政民主主義・勤務条件法定主義について
憲法一五条一項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と規定しているが、これは公務員の勤務関係について、公務員の使用者は国民自身であるとの理念を表明したものであり、ここから勤務条件の基本的事項は国民の代表機関である国会によって決定されなければならないという原則が生じ、更に、憲法八三条は財政民主主義を規定しており、ここから、国の財政にかかる公務員等の給与・退職金などの金銭的勤務条件は、基本的に予算、法律の形式で国会の議決に基づくことが要求される。
しかしながら、右のことは、公務員の勤務条件のすべてが法律により定められるべきであることを意味するものではなく、勤務条件法定(条例)主義の下においても、団体交渉及び争議行為によって、多くの労働条件の改善が行われ、団体交渉権及び争議権が現実に機能しているのであるから、財政民主主義・勤務条件法定主義から公務員の労働基本権を否定することはできない。
仮に、財政民主主義・勤務条件法定主義が公務員の労働基本権を制約するものであるとしても、両者は調和的に両立可能なものであり、公務員の労働基本権の制限は合理性のある必要最小限度のものでなければならないところ、職務の公共性が極めて高い公務員の争議行為や著しく長期間にわたる争議行為により国民生活への影響が極めて大きくなった場合にその段階で争議行為の禁止や労働関係調整法三五条の二に規定する緊急調整のような部分的制限を講ずれば十分であるのであって、すべての非現業公務員の一切の争議行為を全面一律に禁止する地公法三七条一項は憲法二八条に違反することが明らかである。
(2) 職務の公共性について
地方公務員の職務は、現業、非現業を通じて、議会、総務、福祉、衛生、商工観光、労働、農政、消防、警察、教育など多様であり、そのうち争議行為による一時的な職務の停廃によって、地方住民の生命、健康、安全等に重大な障害を及ぼすおそれのある職務は、警察、消防や民生、衛生の一部程度にしかすぎない。
右のように多数の職員は、多種多様な職務に携わっており、職種も極めて多岐にわたって、その職務の公共性の度合いは強弱様々である。また、公共性をもつ業務を遂行するものが必ずしも公務員の身分をもつものとは限らず、どの分野を公務員が担当するかは、極めて政策的・便宜的なものである。
したがって、争議による国民生活への影響の度合い、程度等は多様であり、到底一律的な規制になじむものでなく、地公法三七条一項の争議行為の全面一律禁止の合理性がないことは明らかである。
(3) 争議行為の全面一律禁止に対する代償措置は、人事委員会勧告制度のみであり、人事委員会勧告制度は、争議行為の全面一律禁止に見合う代償措置とは認めがたい。すなわち、
① 人事委員会・公平委員会を代償機関として位置づける場合、それは労使双方から中立かつ公平なものでなければならないところ、地公法は、人事委員会・公平委員会の構成について、三名の委員をもって組織し(九条一項)、議会の同意を得て地方公共団体の長が任命するものとしている(同条二項)。
しかしながら、労使紛争の解決のための第三者機関の構成として、本来あるべき姿は、国際労働機関(以下、ILOという。)にも見られるように政府当局・労働者(労働組合)及び使用者(使用者団体)の三者構成であり、たとえこのような三者構成をとらないとしても、少なくともその構成員の選任については、労働者団体の意見が充分に反映されるような仕組みとなっていることが、公平性を担保し、当事者の信頼を確保するうえで不可欠の条件であるところ、人事委員・公平委員の選任については、労働者団体が選任について意見を述べる機会すら法手続上も実際上も全く与えられていないのであって、人事委員会・公平委員会の構成とその選任手続は著しく中立・公正を欠くものであることが明らかである。
② 代償措置をもって争議権に代わる補償措置と位置づけるかぎり、それは労使間の労働条件をめぐる行き詰まりを打開して適切な公平な解決をもたらすべきもので、すなわち調停・仲裁手続でなければならない。
しかしながら、人事委員会の給与勧告は、制度それ自体として、人事委員会が独自の立場で行う勧告制度であって、労使の当事者双方の折衝手続を前提とした調停・仲裁手続とはなっていない。
③ 争議権が労働者の使用者に対する実質的自由と平等を確保して、自主的・自律的な労働条件を保障しようとするものである以上、この権利を剥奪したことに対する代償措置においては、そのすべての段階に当事者が参加して意見を述べ、その裁定に反映されることが確保されなければならない。
ところが、人事委員会勧告制度においては、労使当事者、とくに公務員組合側がこれに参加する権利は全く法定されておらず、逆に、その給与勧告の算出過程も非公開とされているのであって、これに対して組合が意見を述べ、その意見が勧告に反映されるという手続的保障は存在しない。
④ 争議権を剥奪することに対する代償としての第三者機関による裁定は、本来労働条件決定過程を補完すべきものでなければならないのであるから、その裁定が労使の両当事者を拘束し、迅速かつ完全に実施されるべきことは当然のことである。
しかるに、人事委員会に与えられている権限は、単に地方公共団体の議会及び長に対して「勧告」をなすのみであり、その勧告には、法律上の拘束力を与えられていない。公平委員会に至っては、給与勧告権すら与えられていない。
2 地公法三七条一項及びこれに基づく本件処分は、憲法九八条二項に違反し無効である。
(一) 憲法九八条二項により、政府は条約尊重義務を有し、また、わが国は結社の自由及び団結権の保護に関する条約(以下、ILO八七号条約という。)を締結し、批准している。
(二) ILO条約勧告適用専門家委員会や結社の自由委員会は、ILO八七号条約(三条、一〇条)の解釈として、①ストライキ権はすべての労働者にとって、その利益を擁護するための不可欠な手段であり、これを全面的に禁止することはILO八七号条約の結社の自由を侵すものである、②ストライキ権の制限・禁止が許容されうる労働者の範囲は、公権力の代行者として行動する一部の公務員や不可欠業務に限られるべきであって、教育公務員はこれらに該当しない、③ストライキ権を制限・禁止する場合には、労使の両当事者がすべての段階において参加することができ、その裁定が両当事者を拘束するとともに、右裁定が完全かつ迅速に実施されるという要件を満たした適切、公平かつ迅速な調停・仲裁手続が保障されていなければならない、という諸原則を確固たる基準として定立しており、これは、ILO自身はもとより国際的に確立した最低労働基準というべきものである。
右からすると、すべての地方公務員に対してストライキを全面一律に禁止し、しかも右禁止に見合うべき適切・公平かつ迅速な調停・仲裁手続を欠いている地公法三七条一項がILO八七号条約に抵触して憲法九八条二項に違反していることは疑いの余地がない。
六 原告らの再抗弁
1 憲法上保障された争議行為
(一) 本件ストライキに至る経緯
(1) 政府は、昭和四五年から昭和五三年まで九年間にわたって、人事院勧告に全面的に従って、その完全実施をしてきたものであり、政府も慣熟した慣行と認めてきたのである。
(2) ところが、昭和五四年に至り、人事院勧告にもかかわらず、政府は指定職俸給表(一般職の職員の給与に関する法律六条八・別表八)適用職員については一〇月一日改定実施とする閣議決定を行い、翌五五年も同様の措置がとられた。
(3) 更に、昭和五六年一一月二七日、政府は、財政の非常事態を理由として、同年の給与改定に関し、「①俸給表等は、人事院勧告どおり昭和五六年四月一日(調整手当てについては、昭和五七年四月一日)から改正を行うが、指定職及び本省課長等の職員については、昭和五七年四月一日から改定を行う。②期末、勤勉手当は、昭和五五年度の俸給等を基準に算定した額に凍結する。」との閣議決定を行い、諸手当が凍結された。
(4) 昭和五七年度の公務員給与改定に関して、日本公務員労働組合共闘会議(以下、公務員共闘という。)と政府との交渉がもたれ、昭和五七年四月一四日、公務員共闘は政府から次のような回答を得た。
① 人事院の給与勧告は、労働基本権制約の代償措置の一つとして理解しており、それを尊重するのが基本的建前である。
② 本年度の給与勧告の取扱については、逼迫した財政事情をはじめ極めて厳しい状況下にあるが、誠意をもって努力する。
③ 早期支給については、人事院勧告後諸般の事情を勘案し、できるだけ早い時期に給与法を改正するよう誠意をもって努力する。
④ 国家公務員について給与改定が行われた場合、地方公務員についても、これに準じて配慮されるべきであると思うので自治大臣に伝える。
(5) 人事院は、同年八月六日に内閣と国会に対し、公務員賃金を平均4.5パーセント(一万七一五円)増額改定することを中心とする勧告をした。
(6) 右勧告を受けた政府は、給与関係閣議会議を重ね、同年九月一六日、当時の内閣総理大臣鈴木善幸において、「財政非常事態宣言」がなされ、同月二〇日の給与関係閣僚会議において、人事院勧告凍結を決定し、同月二四日の閣議で人事院勧告凍結が正式に決定され、その理由として「一般職の職員の給与に関する法律の適用を受ける国家公務員の給与については、去る八月六日に人事院勧告が行われたところであり、労働基本権の制約、良好な労使関係の維持等に配慮しつつ検討を進めてきたが、未曾有の危機的な財政事情の下において、国民的課題である行財政改革を担う公務員が率先してこれに協力する姿勢を示す必要があることにかんがみ、また、官民給与の較差が一〇〇分の五未満であること等を総合的に勘案してその改定を見送るものとする。」と述べられ、さらに、地方公務員の給与については、「現下の諸情勢等を総合的に勘案して、上記の措置がとられることにかんがみ、国家公務員に準じた措置を講ずるべきであり、この旨を地方公共団体に要請するものとする。」と述べた。
自治事務次官は、右閣議決定を受けて、右同日、各都道府県の知事及び各政令指定都市の市長に対し、「地方公務員の給与は、給与決定原則に則り、国家公務員の給与に準じて措置されるべきものであり、地方公務員の給与改定に関する取扱いについては、国家公務員の給与改定について現下の諸情勢等を総合的に勘案してその取扱いが閣議決定されたことを踏まえ、国の措置に準じて対処されるよう通知する。」旨の通知を発した。
(7) 熊本県人事委員会は、同年一〇月二一日、熊本県議会議長及び熊本県知事に対し、熊本県職員の給与について、「現行の給料表を国家公務員についての人事院勧告の俸給表に準じて改定する。」旨の勧告を出した。
(8) 熊本県教組及び熊本県高教組は、政府の人事院勧告凍結撤回を求めて、公務員共闘、日教組の人事院勧告凍結撤回・人事院勧告完全実施を要求する統一闘争に参加するとともに、熊本県公務員共闘及び熊本県公労協が組織した人事院勧告凍結撤回、右熊本県人事委員会勧告の完全実施等を求める統一闘争に参加した。
(9) このような経緯を経て、原告らは、昭和五七年一二月一六日、本件ストライキを実施した。
(二) 人事院勧告と人事委員会勧告との関係並びに人事院勧告制度の趣旨及び憲法上の位置づけについて
(1) 本件では、公立学校教職員を含む地方公務員の組合が、国家公務員の組合と一体となって、政府が人事院勧告の凍結を決定したのに対し、勧告凍結の閣議決定を撤回して、これを完全実施するよう要求してストライキを行った。これは、人事院勧告に対する政府の対応が、各県の人事委員会勧告に対する県当局の対応に、事実上の強制力を及ぼすからである。すなわち、政府が人事院勧告を凍結すると、自治省は、各県もこれにならうように強力に指導し、これに従わなければ、その県は裕福な財源があるということで、特別交付金、補助金あるいは起債の許可などで不利益な扱いを受けることから、各県当局もそれにならって人事委員会勧告を凍結せざるをえないのである。
したがって、各県の地方公務員(市町村立学校の県費負担教職員を含む)が人事委員会勧告の完全実施を実現するためには、まずもって人事院勧告の完全実施を要求して闘わざるをえないのであって、本件の場合には、人事委員会勧告制度が機能を果たしているか否かだけでなく、人事院勧告制度が機能を果たしているか否かによって、本件ストライキに対して地公法三七条を適用したことが違憲か否かを判断しなければならない。
(2) 人事院勧告制度は、国会が公務員の給与を「社会一般の情勢に適応するように」(国家公務員法二八条一項)決定することができるようにするため、別言すれば公務員に民間労働者と同等な賃金を決定することができるようにするために、独立した専門機関である人事院の給与勧告制度を設けた(国家公務員法六四条二項、二八条二項)というものであって、人事院勧告が政府及び国会によって完全実施され、公務員が現実に民間並みの賃金を民間の賃上げの時期と同じ時期に受け取ることができるようになって、初めてこの制度の代償機能は完結することになる。人事院がいかにきちんとした勧告を行っても、人事院勧告が実施されなければ、それは代償機能を発揮したことにならないのであって、人事院勧告が完全実施され、公務員が民間並みの給与を受け取ることができるようになること、これが代償措置としての人事院勧告制度の本来の機能なのである。人事委員会勧告制度についても、全く同様のことがいえる(地公法一四条、二四条三項、二六条)。
したがって、右の人事院勧告制度・人事委員会勧告制度の本来の機能である勧告の完全実施がなされず、しかも、政府・熊本県当局が誠実に法律上及び事実上可能なかぎりのことを尽くしたと認められない場合には、公務員が相当と認められる範囲の手段態様の争議行為を行ったとしても、それは憲法上保障された争議行為というべきである。
(三) 政府及び熊本県当局は、人事院勧告ないし人事委員会勧告完全実施のために誠実に法律上及び事実上可能なかぎりのことを尽くしたと認められない。
(1) 昭和五七年度に「未曾有の危機的な財政事情」を生じたというのはその前後の年度の財政事情からして虚構の事実であり、人事院勧告完全実施のための所要額三三八〇億円(当初予算に組み入れた一パーセント分を除けば二六九一億円)程度の財源調達は、大蔵省が当初の予定通り徴税努力を行えば容易に出来たのであり、また調達できる財源は他にいくらでもあり、しかもそのようなやりくりは通常いくらでもやっているにもかかわらず、政府は、人事院勧告完全実施のための努力は全く行っていないばかりか、当初予算に組み込んだ一パーセントまでも取り崩しているのであって、政府が誠実に法律上及び事実上可能なかぎりのことを尽くしたとは到底認められない。
(2) 熊本県当局が人事委員会勧告を凍結した最大の理由は、財源の有無ではなく、専ら国の財政上の圧力であった。すなわち、現行法制の下において、地方公共団体に対し、人事委員会勧告完全実施を理由に起債の許可や特別交付金の交付及び補助金決定について国が通知・通達によって制裁措置を加えることは違法というほかないところ、熊本県の昭和五七年度の財政状況は経常収支比率71.3パーセントと良好であり、人事委員会勧告完全実施は十分に可能であったのであり、違法・不当な国の圧力に屈して人事委員会勧告凍結に出たことは、人事委員会勧告実施のための努力を放棄したに等しい。
(四) 本件ストライキは、相当と認められる範囲を逸脱しない手段態様のものである。
(1) 本件ストライキは、前記(一)の経緯に照らすと、必要かつやむを得なくしてなされたものである。
(2) 本件ストライキは、始業時より二時間あるいは終業時前一時間の単純不作為による同盟罷業であり、これを法の要請する年間基準時間と対比すると、小、中学校、高等学校のいずれについて見ても授業の支障を問う程のものでなかった。
(五) 以上より、本件ストライキは、憲法二八条に保障された争議行為というべきである。
2 懲戒権の濫用
(一) 人事院勧告・人事委員会勧告凍結の不当性
(1) 本件ストライキに至る経緯は、前記1の(一)で述べたとおりであり、原告らが熊本県人事委員会勧告の完全実施を求めるためには、その前提として政府に対して人事院勧告凍結撤回等を求めざるを得なかったことは前記1の(二)の(1)のとおりであるところ、昭和五七年九月二四日の閣議決定前の関係労働団体との交渉で政府は人事院勧告の凍結については一切触れず、右決定後、本件ストライキに至るまで、これに固執し、終始一切の妥協策をとろうともせず、昭和五八年度以降の人事院勧告の取扱いによる回復の目途についても、実質的具体的回答は避けていた。
(2) 政府あるいは熊本県当局が人事院勧告・人事委員会勧告の一部ないし全部の実施をしないことがやむをえないこととして許容されるのは、あらゆる努力を尽くしても完全実施できない客観的・相当な理由がある場合に限られるというべきであるところ、前記1の(三)で述べたとおり、完全実施できない客観的・相当な理由はなかった。
(3) 昭和五七年度の民間賃金の賃上げ率は定期昇給込みで平均7.01パーセントであり、また仲裁裁定(定期昇給抜き平均4.60パーセント)は完全実施されたのであり、人事院勧告及び人事委員会勧告の凍結は非現業公務員のみに著しい不利益を強いるものであった。
(二) 本件ストライキの目的・動機・態様・影響
(1) 本件ストライキは、政府に対し人事院勧告凍結解除・人事院勧告完全実施を、また、熊本県に対し人事委員会勧告完全実施を求めるものであり、政府・熊本県の不当な措置に対して、人事院及び人事委員会の勧告制度の正常な運用を求めたものであって、目的・動機において全く正当なものである。
(2) 本件ストライキの態様も前記1の(四)で述べたとおり、授業の支障を全く生じさせておらず、児童生徒に何らかの悪影響を及ぼした事実はない。
(3) 本件ストライキについては、これを違法として非難する社会的風潮も一般的には存在しなかった。
(4) したがって、本件ストライキは、その動機・目的において正当であり、その態様・影響においても社会的相当性を有するものであることは明らかである。
(三) 本件処分の苛酷性
(1) 原告らの受けた本件処分は、平成元年二月一四日付文部省教育助成局長名の「昭和天皇の崩御に伴う職員の懲戒免除等について(通知)」により将来に向かっては免除されたが、懲戒処分に伴う昇給延伸については復元されずに現在に及んでいる。
熊本県の場合には、昭和四一年以降懲戒処分が課せられた場合、昇給一期延伸とされていることから、懲戒処分がなされたことにより原告らが被る不利益としては、懲戒処分それ自体に加えて昇給一期延伸によって被る不利益をも考慮すべきであるところ、昇給一期延伸は退職まで解消されないばかりか、一時金・退職金・退職年金の全てに影響を与えるものであり、退職時までの給与に限って試算してみると、四〇才で戒告処分を受けた場合六〇才で退職するまでの間の給与上の損失は六パーセントベースアップを前提とすると約一二七万円に及ぶ。
(2) 昭和五七年一二月一六日のストライキは、公務員共闘傘下の一二単産で、同一目的の下にほぼ同等の規模態様で実施されたが、これに対する懲戒処分は各単産により大きくことなっているところ、懲戒処分をされたのは、日教組が一九県教組・一二高教組、全体で約三〇万人の参加組合員のうち約四万六〇〇〇人であるのに対し、全農林は参加者約三万八〇〇〇人中五〇〇人余、自治労は参加者約六万人中七〇〇〜八〇〇人、その他国公労連の一部に過ぎず、実損回復措置もとられており、他の単産においては懲戒処分はなされていない。
しかも、日教組においても、一〇県では懲戒処分がなされていないのに、熊本県では原告らを含め参加者のほぼ全員四一六七人が懲戒処分を受けている。
(3) したがって、本件処分は本件ストライキに対する処分としては、著しく苛酷なものである。
(四) 以上より、本件処分は、社会概念上著しく妥当を欠く処分であり、被告のなした本件処分は被告の懲戒権を濫用したものというべきである。
七 被告の主張
1 本件処分の適法性について
(一) 学校教育は、年間教育計画や授業計画に従って行われるべきことは当然としても、それは、感受性豊かな成長期にある児童・生徒の人格の完成をめざして行われるものであり、その場面に携わる者の片言一句、一挙手一投足は児童・生徒の人格形成に重大な影響を及ぼす力を有しているのであるから、単なる知識の切り売りや技能の教示のみによって完遂できる性質のものではなく、人と人、心と心の触れ合いの中で教育に携わる者の全人格的対応を通じて行われるべきものなのであり、学校教育に携わる者の怠業の及ぼす悪影響には重大なものがある。
(二) そこで、本件についてみるに、本件ストライキは、重要な事業である教育に携わる立場にある教職員が、学校長等当局側において事前に争議行為に及ばないよう再三にわたり厳重に指導していたにもかかわらず、あえてこれを無視して、管理職を除く全職員の約三分の一にも当たる四四五三名の多数をもって二時間(定時制高校にあっては一時間)にも及ぶストライキを敢行したというのであるから、授業等の校務への直接的支障はいうに及ばず、かねて遵法精神を説きながら自らは違法な争議行為をあえて行うことにより、児童・生徒に遵法精神を歪曲した形で教える結果となるとともに、教職員に対する児童・生徒の信頼感を失わせ、純真無垢な児童・生徒に精神的動揺及び学習意欲の減退等計り知れない支障を与えたものであり、その結果は、児童・生徒の教育を通じて獲得される人格的利益に対してはもちろんのこと、教育の有する社会的意義からみた場合、住民ないし国民ひいては国家の利益に対しても重大な悪影響を与えたというべきである。
(三) したがって、本件処分は、本件ストライキが及ぼした結果の重大性にもかかわらず、地公法二九条一項所定の処分のうちでは最も軽い処分である戒告がなされたにすぎないものであるから、懲戒権の濫用に当たるものではない。
2 地公法三七条の違憲性の主張について
(一) 憲法二八条の労働基本権の保障は、憲法二五条のいわゆる生存権の保障を基本理念とし、憲法二七条の勤労者の権利及び勤務条件に関する基準の法定の保障とあいまって勤労者の経済的地位の向上を目的とするものである。このような労働基本権保障の根本精神に即して考えると、地方公務員も勤労者として自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点においては、私企業の労働者と異なるところがないから、憲法二八条の労働者に当たるものと解される。
(二) しかしながら、労働基本権は、勤労者の経済的地位の向上のための手段として認められたものであって、それ自体が目的とされる絶対的なものではないから、おのずから勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からすると制約を免れないものであり、地方公務員は、私企業の労働者とは異なり、その憲法上の地位ないしはその社会的、経済的地位の特殊性から労働基本権の保障についても私企業の労働者の場合とは異なる重大な制約を受ける。
(1) 地方公務員の勤務条件は、憲法九二条ないし九四条所定の地方自治の本旨に基づき、法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によって決定すべきものとされており(地公法二四条六項)、その給与が地方公共団体の税収等の財源によって賄われるところから、専ら当該地方公共団体において政治的、経済的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定されなければならないのである。したがって、地方公務員については、私企業のように勤務条件を労使間の合意で共同決定するという方式は妥当しないので、労使間の協約締結権を前提とする争議権が機能する余地がないばかりか、地方公務員による争議行為が行われると、かえって、使用者としての地方公共団体が自らの権限をもっては解決できない立法問題に逢着する結果を招くだけでなく、議会における民主的な手続によって行われるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、その議決権を侵害し、ひいては議会制民主主義に背馳することになる。
(2) また、地方公務員の地位に着目すると、私企業の場合には、一般に作業所閉鎖をもって争議行為に対抗する手段があるほか、労働者の過大な要求を受け入れることは、企業の経営を悪化させ、企業そのものの存立を危殆ならしめ、ひいては労働者自身の失業を招くという重大な結果をもたらすことになるから、労働者の要求は自ずからこの面から抑制が働き、さらには、その提供する製品、役務に対する需要につき、市場からの圧力を受けざるを得ない関係上、争議行為に対しても、必然的にいわゆる市場の抑制力が働くのであるが、これに対し、地方公共団体には、地方公務員の争議行為に対抗する手段はなく、地方公務員の職務は利潤の追求を本来の目的とするものではないことから、市場の抑制力機能が作用する余地もない。そのため、地方公務員の争議行為は場合によっては一方的に強力な圧力となり、この面からも地方公務員の勤務条件決定手続を歪めることになる。
(3) さらに、地方公務員は、憲法一五条の示すとおり、本来その使用者は地方住民全体であって、これらに対し職務提供義務を負うものであり、その職務内容も、公共の利益のために勤務する者であって、地方住民全体の共同利益の追求という公共性を有している。そのため、地方公務員の職務は、常に安定した状態の下で円滑に遂行されることが必要不可欠である。しかるところ、地方公務員が争議行為に及ぶことは、多かれ少なかれ公務の停廃をもたらし、地方住民全体、ひいては国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあるものといわなければならない。
(三) 右の制約の根拠に照らせば、地方公務員には、私企業の労働者の場合のような労使による労働条件の共同決定を内容とするような団体交渉権及び右共同決定のための団体交渉過程に予定されている争議権は、憲法上当然に保障されたものとはいえないのであって、地方公務員に対する争議行為の一律禁止を規定する地公法三七条一項は、憲法二八条に違反するものではない。
(四) 代償措置の位置づけ
(1) 地方公務員の労働基本権を制限するに当たっては、生存権擁護の見地から、いわゆる代償措置が講じられなければならないと解されるが、これは、原告らの主張するように本来憲法上保障されている争議権を奪った代償としての措置ではない。
(2) しかも、憲法は、その代償措置の具体的内容を何ら規定しないで、これを国会の立法裁量に委ねているのであるから、現行の代償措置の内容が憲法の要請に応ずるものであるか否かは、右生存権の理念に基づき、これに見合う相応の措置であるか否かを基準として、具体的に検討されるべきである。
(3) そこで、現行の代償措置制度についてみると、地方公務員の労働基本権に対する制約については、地公法及び条例による身分保障並びに人事委員会又は公平委員会による給与その他の勤務条件や人事行政の改善、人事行政の公正の確保、職員の利益の保護等の措置が講じられており、これらは、生存権擁護の見地から、地方公務員の労働基本権の制約に見合う相応の措置として十分なものである。
3 ILO八七号条約・九八号条約をめぐる主張について
(一) ILO八七号条約が争議権を保障したものでないことは、判例上明確に認められているところであり、我が国における同条約の締結及び承認並びに同条約の批准に関連する国内法の改正の各経緯に照らしても明らかである。
すなわち、同条約の締結は昭和四〇年に国会で承認されたが、その際、同時に同条約の批准に関連する関係国内法の法律改正が行われ地公法の関係では「地方公務員法を一部改正する法律」(昭和四〇年法律第一七号)が成立した。地公法の改正にあたっては、国会において、争議権の一律全面禁止との関係についても審議されたが、同条約は争議権の保障を含むものではないとされたのである。
(二) ILO九八号条約が公務員に適用されるものでないことは、同条約六条において「この条約は、公務員の地位を取り扱うものではなく、また、その権利又分限に影響を及ぼすものと解してはならない。」と規定されていることから明らかである。
4 人事院勧告の実施を求めた争議行為が正当なものであるとの主張について
(一) 国家公務員に対する現行の代償措置制度は、身分保障、勤務条件法定主義、人事院制度、人事院勧告制度であり、人事院勧告が実施されなかったといって、それだけで代償措置がすべて画餅に帰したとは到底いえない。
(二) 地方公務員である原告らが国家公務員に関する人事院勧告の完全実施を求めることは、熊本県当局には対応できない事項にかかるものであり、本件ストライキは、その目的自体において正当な要求とはいいがたいもので、違法であることは明らかである。
(三) 仮に、地方公務員である原告らが人事院勧告の完全実施を求めることが争議行為として正当な目的を有し、かつ、人事院勧告だけが代償措置であるとしても、昭和五七年度の人事院勧告の不実施については、政府は誠実に法律上及び事実上可能な限りのことを尽くしたのである。
すなわち、昭和五七年度は大幅な歳入不足のため、国の財政事情が未曾有の危機的状況にあり、人事院勧告を受けた政府は、閣議決定に至るまで、関係各労働団体と会見を重ねて右財政事情を説明する一方、各労働団体の意見を聴取し、国会においても十分な議論がなされたが、結局、人事院勧告が全くなされなかった。しかし、定期昇給は例年通り実施され、昭和五八年度以降は、財政危機の続く状況下で、昭和五七年度の不実施分の一部に相当する分も含めて人事院勧告が実施され、昭和六一年度には完全実施が実現したのである。
5 人事委員会勧告の実施を求めた争議行為が正当なものであるとの主張について
仮に、本件ストライキの目的が、人事委員会勧告の完全実施を求めるためのものであり、地方公務員に関する代償措置の正常な運用を要求したものであるとしても、原告らの主張は以下のとおり失当である。
(一) 地方公務員に対する現行の代償措置制度は、人事委員会勧告だけではないのであるから、人事委員会勧告が実施されなかったからといって、それだけでいわゆる代償措置がすべて画餅に帰したとは到底いえない。
(二) 仮に、人事委員会勧告だけが代償措置であるとしても、次のとおり、昭和五七年度の人事委員会勧告の不実施については、熊本県当局は、誠実に法律上及び事実上可能な限りのことを尽くしたのである。
(1) 熊本県は、昭和五七年度における同県の財政事情が地方交付税の減額交付、県債の大量発行等により、国と同様、極めて厳しい状況にあったこと、自治事務次官通知、地公法二四条三項及び教育公務員特例法二五条の五第一項の規定の趣旨に照らして、到底勧告を実施し得ない事情にあるとして、同県独自の判断に基づき、昭和五七年度の給与改定を実施しなかったのであり、国の違法な圧力によったのではない。
(2) 昭和五七年度においても、平均二パーセント強の昇給がなされ、これは当該年度の物価上昇率とおおむね見合うものであった。
(3) 昭和五八年度以降は、財政危機の続く状況下で、昭和五七年度の不実施分の一部に相当する分も含めて人事委員会勧告が実施され、昭和六一年度には完全実施が実現した。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1ないし3の各事実については当事者間に争いがない。
二抗弁について
1 原告らについて、地公法二九条一項に基づいて本件処分を受けるべき事由が存したか否かについて検討する。
(一) 抗弁1、3、5及び6の各事実については当事者間に争いがない。
(二) <書証番号略>によれば、抗弁2の事実を認めることができる。
(三) <書証番号略>によれば、抗弁4の各事実を認めることができる。
(四) (一)ないし(三)の各事実を総合すると、原告らの本件ストライキが、地公法三七条一項に違反するものであり、同法二九条一項一号の懲戒事由に該当することは明らかである。
2 原告らは、地公法三七条一項及びこれに基づく本件処分は憲法二八条に違反する旨主張する。
(一) 確かに、地方公務員も憲法二八条の勤労者であり、同条の労働基本権の保障は地方公務員にも及ぶと解すべきであるが、地方公務員は地方公共団体の住民全体の奉仕者として、実質的にはこれに対して労務提供義務を負うという特殊な地位を有し、かつ、その労務の内容は、公務の遂行すなわち直接公共の利益のための活動の一環をなすという公共的性質を有するものであって、地方公務員が争議行為に及ぶことは右のようなその地位の特殊性と相いれず、また、そのために公務の停廃を生じ、地方住民全体ないし国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼす。そして、地方公務員の勤務条件が法律及び地方公共団体の議会が制定する条例によって定められ、また、その給与が地方公共団体の税収入等の財源によってまかなわれるところから、専ら当該地方公共団体における政治的・財政的・社会的その他諸般の合理的な配慮によって決定されることからすると、私企業における労働者の場合のように団体交渉による労働条件の決定という方式が当然には妥当せず、争議権も団体交渉の裏付けとしての本来の機能を発揮する余地に乏しく、かえって議会における民主的な手続によってなされるべき勤務条件の決定に対して不当な圧力を加え、これを歪めるおそれがある。
したがって、地方公務員の労働基本権は地方住民全体ないし国民全体の共同利益のために、これと調和するように制限されることはやむをえないというべきである(最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁参照)。
(二) 他方、地方公務員の労働基本権が地方住民全体ないし国民全体の共同利益のために制約を受ける場合においては、その間に均衡が保たれる必要があり、したがって右制約に見合う代償措置が講じられなければならないところ、地方公務員の場合には、地公法上、その身分・任免・服務・給与その他に関する勤務条件についてその利益を保障するような定めがなされており(二四条ないし二八条等)、公正かつ妥当な勤務条件の享有を保障する手段として人事委員会又は公平委員会の制度が設けられていること(七条ないし一二条)からして、制度上、地方公務員の労働基本権の制約に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているものと認めることができる。
(三) したがって、地公法三七条一項が地方公務員の争議行為を禁止するのは、地方住民全体ないし国民全体の共同利益のために、やむをえないというべきであって、憲法二八条に違反するものではない(最高裁判所昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁参照)。
これと見解を異にする原告らの主張は採用しない。
3 原告らは、地公法三七条一項及びこれに基づく本件処分がILO八七号条約と抵触し、憲法九八条二項に違反する旨主張する。
原告らは、ILO条約勧告適用専門家委員会や結社の自由委員会が前示第二の五の2のとおりILO八七号条約を解釈していることを論拠として、地公法三七条一項はILO八七号条約に抵触していると主張するが、もともとILO八七号条約は結社の自由及び団結権の保障を目的としたものであって、争議権を保障したものではないから、その前提を欠き、右主張は採用することができない(最高裁判所平成元年九月二八日第一小法廷判決・最高裁判所裁判集民事第一五七号六五五頁参照)。
三再抗弁について
1 本件ストライキに至る経緯
<書証番号略>、証人槙枝元文、同中小路清雄及び同大出俊の各証言並びに当事者間に争いのない事実を総合すると、以下の事実が認められる。
(一) 人事院勧告は、昭和二三年の第一回勧告以来、その引上げ金額あるいは実施時期について完全な実施が見送られるという状態が続いていたが、昭和四五年に至り漸く完全に実施されるようになった。その際、当時の内閣総理大臣佐藤栄作は、同年一二月三日開催の第六四回国会衆議院本会議において、人事院勧告はこれを尊重し、今後とも完全実施したい旨述べた。
熊本県当局の熊本県人事委員会勧告に伴う熊本県職員の給与改定は昭和三五年から国に準じてなされており、昭和四五年の人事院勧告の完全実施を受けて、熊本県人事委員会勧告も完全実施されることになった。
(二) 人事院勧告及び熊本県人事委員会勧告は、その後昭和五三年までは完全実施されてきたが、昭和五四年及び同五五年には指定職俸給表適用職員について実施時期が一〇月一日とされて完全実施が一部崩れ、更に昭和五六年一一月二七日、政府は、財政の非常事態を理由として、同年の給与改定に関し、「①俸給表等は、人事院勧告どおり昭和五六年四月一日(調整手当については、昭和五七年四月一日)から改定を行うが、指定職及び本省課長等の職員については昭和五七年四月一日から改定を行う、②期末、勤勉手当は、昭和五五年度の俸給表等を基準に算定した額に凍結する。」との閣議決定を行い、諸手当が凍結された。
この際、当時の内閣総理大臣鈴木善幸は、昭和五六年一一月二六日、第九五回国会参議院行財政改革に関する特別委員会、内閣委員会、地方行政委員会、大蔵委員会連合審査会において、「毎年毎年ことしのような異例の措置が繰り返されるようであれば、これはまさに人事院制度の根幹に触れるような結果に相なると思います。政府といたしましては、ことしは御承知のような非常に財政非常の事態でございますので異例の措置をとったわけでございますが、今後は人事院制度の持つ権威なりあるいはその勧告の重みというものを十分心得まして、誠意をもってこれに取り組んでまいる所存でございます。」と答弁した。
(三) 昭和五七年度の公務員給与改定に関して、公務員共闘と政府との交渉がもたれ、昭和五七年四月一四日、公務員共闘は、総理府総務長官から次のような回答を得た。
(1) 人事院の給与勧告は、労働基本権制約の代償措置の一つとして理解しており、それを尊重するのが基本的建前である。
(2) 本年度の給与勧告の取扱いについては、逼迫した財政事情をはじめ極めて厳しい状況下にあるが、誠意をもって努力する。
(3) 早期支給については、人事院勧告後諸般の事情を勘案し、できるだけ早い時期に給与法を改正するよう誠意をもって努力する。
(4) 国家公務員について給与改定が行われた場合、地方公務員についても、これに準じて配慮されるべきであると思うので自治大臣に伝える。
(四) 人事院は、同年八月六日、内閣及び国会に対し、一般職の国家公務員の給与について、平均4.58パーセント(一万七一五円)の引上げ、同年四月一日から実施すべきである旨の勧告を行った。
これを受けて、公務員共闘は、同日、総理府総務長官等に対し、人事院勧告の早期完全実施を要求した。
(五) 右勧告を受けた政府は、給与関係閣僚会議を重ね、同年九月一六日、当時の内閣総理大臣鈴木善幸において「財政非常事態宣言」がなされ、同月二〇日の給与関係閣僚会議において、人事院勧告の凍結を決定し、同月二四日には「一般職の職員の給与に関する法律の適用を受ける国家公務員の給与については、去る八月六日に人事院勧告が行われたところであり、労働基本権の制約、良好な労使関係の維持等に配慮しつつ検討を進めてきたが、未曾有の危機的な財政事情の下において、国民的課題である行財政改革を担う公務員が率先してこれに協力する姿勢を示す必要があることにかんがみ、また、官民給与の較差が一〇〇分の五未満であること等を総合的に勘案してその改定を見送るものとする。」「地方公務員の給与については、現下の諸情勢等を総合的に勘案して、上記の措置がとられることにかんがみ、国家公務員に準じた措置を講ずるべきであり、この旨を地方公共団体に要請するものとする。」等を内容とする閣議決定がなされた。
そして、同日、当時の内閣総理大臣鈴木善幸は、右閣議決定について、「もとより今回の措置は極めて異例なものであり、このような措置が繰り返されることのないよう最善の努力をいたします。また、この決定が人事院勧告の持つ意義、その役割や制度の否定を意味するものでないことはいうまでもありません。」等を内容とする談話を発表した。
(六) 自治事務次官は、右閣議決定を受けて、右同日、各都道府県の知事及び各政令指定都市の市長に対し、「地方公務員の給与は、給与決定原則に則り、国家公務員の給与に準じて措置されるべきものであり、地方公務員の給与改定に関する取扱いについては、国家公務員の給与改定について現下の諸情勢等を総合的に勘案してその取扱いが閣議決定でなされたことを踏まえ、国の措置に準じて対処されるよう通知する。」旨の通知を発した。
(七) 熊本県人事委員会は、同年一〇月二一日、熊本県議会議長及び熊本県知事に対し、熊本県職員の給与について、「現行の給料表を国家公務員についての人事院勧告の俸給表に準じて改定する。」等を内容とする勧告をなした。
(八) 熊本県当局は、右熊本県人事委員会勧告の取扱いについて、前記の閣議決定や自治事務次官通知にかんがみ、政府や他の都道府県の動向を見守り、本件ストライキに至るまでには、実施・不実施の態度を明らかにしなかった。
(九) 結局、昭和五七年度において、人事院勧告及び熊本県も含め各都道府県及び政令指定都市の人事委員会勧告は凍結されたままであった。
2 人事院勧告の実施と人事委員会勧告の実施との関係について
(一) 法律上は、政府が人事院勧告に従って国家公務員の給与改定を行わない場合であっても、地方公共団体は、人事委員会の勧告に従って地方公務員の給与改定を行いうることは確かであるが、前記1の(一)で認定したように、昭和三五年以降、地方公共団体は、政府の決定に準じた取扱いをしていることが明らかである。
(二) そして、本件の場合においても、前記1の(五)及び(六)で認定したとおり、政府は人事院勧告の凍結を決定するとともに、地方公共団体に対しても同様の措置を講じるよう要請し、地方公共団体も右要請に従った。
(三) そうすると、実際上は、地方公務員である原告らが、熊本県当局に人事委員会勧告の完全実施を求めていこうとする場合には、その前提として、政府に対して、人事院勧告の完全実施を求めて行かざるを得ない関係にあるのであるから、本件ストライキの目的が政府に人事院勧告の完全実施を求めるためのものであるをもって、直ちに、目的が正当でないと断じることはできないというべきである。
これと見解を異にする被告の主張は採用しない。
3 再抗弁1について
(一) 前記二の2で既に述べたように、地方公務員の労働基本権は代償措置の存することをその一つの根拠として制約されているものであるから、仮にその代償措置が迅速公平にその本来の機能を果たさず実際上画餅と等しいとみられる事態が生じた場合には、地方公務員がこの制度の正常な運営を要求して相当と認められる範囲を逸脱しない手段、態様で争議行為に出たとしても、それは、憲法上保障された争議行為であると認められる(前記最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決における裁判官岸盛一、同天野武一の追加意見参照)。
(二) そして、地方公務員にとって、人事委員会勧告制度は給与改定のための唯一といっても過言ではない制度であって、前記二の2で述べた代償措置のなかでも最も重要なものの一つであるから、人事委員会勧告ないしはその事実上の前提となる人事院勧告が将来への明確な展望を欠いたまま、相当の期間にわたり完全に実施されないような状態に陥った場合には、代償措置が本来の機能を果たさない事態となったものとして、その機能の回復を目的として相当と認められる範囲を逸脱しない手段・態様で争議行為を行ったとしても、それは、憲法上許された行為であると評価することができないわけではない。
しかしながら、本件においては、前記1で認定したとおり、昭和五七年度においては、結局、政府・熊本県当局は人事院勧告・人事委員会勧告を凍結したのではあるが、政府・熊本県当局は昭和四五年から昭和五三年にかけては人事院勧告・人事委員会勧告を完全実施し、昭和五四年から同五六年にかけては一部不実施はあるものの概ね勧告どおり実施していたのであり、本件における人事院勧告凍結の措置についても、内閣総理大臣において、今回の措置はきわめて異例なものであって、このような措置が繰り返されることのないよう最善の努力をする旨、また人事院勧告の持つ意義、役割や制度自体を否定するものでない旨言明していたのである。
これらの事実を総合すると、本件ストライキ当時において、人事院勧告ないし人事委員会勧告が凍結され、その政治的責任が問われる危機的な事態に直面していたことは否定し難いが、同時にまた、慣熟した制度としての人事院勧告の重みの中でこのような異例の措置が数年に亘って継続し、不明確な事態のまま推移するといったことは予想されず、したがって、将来への展望を欠いたまま相当の期間勧告が実施されないような状況に立ち至っていたとまで言うことはできないのであって、人事院勧告が労働基本権制約の代償措置としての本来の機能を果たさず、実際上画餅に帰したとは到底いうことができない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件ストライキを憲法上許された争議行為と評価することはできない。
4 再抗弁2について
(一) 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員の義務違反その他単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者としての公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために科される制裁である。そこで、地方公務員につき、地公法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をなすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができ、その判断は、平素から庁内の事情に通暁し、部下職員の指揮監督の衝に当たる者である懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。そして、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがって、裁判所が右処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずるべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきである(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。
(二) そこで、右の見地に立って、本件処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められるか否かについて検討する。
(1) まず、前記1及び2で認定したことを総合すると、原告らが本件ストライキを実施した目的は、政府が昭和五七年九月に至って突然に決定した国家公務員に対する人事院勧告の凍結に対し、地方公務員である原告らが、熊本県当局に対して、熊本県人事委員会勧告の完全実施を求めるとともに、政府に対して人事院勧告凍結撤回等を求めるためになされたものであると認めることができる。
(2) 次に、本件ストライキの規模及び態様については、前記二の1で認定したとおりである。
(3) 原告らは、本件処分に伴う昇給延伸の苛酷性についても考慮すべきであると主張し、<書証番号略>及び証人高山三雄の証言によれば、公務員の場合には、定期昇給が四月、七月、一〇月、一月の四回に分かれているが、定期昇給予定者が懲戒処分を受けた場合には、その予定時期に昇給させない、すなわち昇給時期が三ケ月延ばされること(これがいわゆる昇給延伸といわれる。)があるが、熊本県の場合、本件処分当時、懲戒処分を受けた場合には、昇給延伸が常になされていたこと、現在においても、原告らについては回復措置がとられていないことが認められる。しかしながら、原告らが昇給延伸によって具体的にいくらかの経済的不利益を受けたかについては、これを認めるに足りる証拠はない。
(4) また、原告らは、年間基準時間との対比等を根拠として本件ストライキによる授業等への影響はほとんどなかった旨主張するが、本件ストライキによって、その時間に本来原告らが教職員として行うべき児童生徒に対する授業等の業務を行わなかったことは事実であり、このことによる影響は否定できないのであって、原告らのこの点についての主張を採用することはできない。
(5) (1)ないし(4)及び前記1の本件ストライキに至る経緯によれば、原告らが本件ストライキに参加した動機目的においては、理解できる点がないではないが、本件ストライキは違法な争議行為であり、熊本県当局等の再三の警告を無視して敢えてなされたもので、その規模も熊本県下の小・中・高等及び特殊学校の管理職を除く教職員のうちの三割強にあたる約四四五〇名が参加してなされたものであって、ストライキにかかる時間もさることながら、児童生徒の師表となるべき教職員が違法行為を敢えてなした点で、児童生徒に対して与えた影響は重大であり、かつ社会に与えた影響も少なくないこと、本件処分は懲戒処分の中では最も軽い処分であること等諸般の事情を考慮すると、本件処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認めることはできず、原告らの主張は採用できない。
四結論
そうすると、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官足立昭二 裁判官大原英雄 裁判官横溝邦彦)
別紙<省略>